素地調整
素地調整とは?
「素地調整」とは塗装や造作において最初に行う作業で大切な工程です。
▲ビデオ 室内建具 研磨処理
例えば、新築時に和室白木に塗装する場合や、室内造作の塗装など、部材によっては表面にササクレが生じていたり、汚れや油分の付着が見られる場合があります。
油分の付着などは一見するとさほど重要ではないように考えがちですが、その後ステインと呼ばれる塗装工法を施す場合などでは、塗料の密着性や浸透性に大きく影響します。
塗装工程では、素地と最初に塗られる塗料との密着性が重要視されます。水分・油分・汚れ・錆などを処理する必要があります。
塗装に関する「素地」と「下地」の違い
素地:塗装に関する工程をいっさい行っていない面(例:和室の白木造作材など)
下地:素地に何らかの塗装工程が行われている面で、その後、更に塗装工程を施そうとしている面
※塗り替え工事では、既に塗装が施されている部分と、何ら塗装されていない部分が併存しますので、「素地調整」と「下地調整」が混同されがちです。
例えば、木製玄関ドアの再塗装に於いて、旧塗膜の剥離処理は「下地処理」ですが、完全剥離後に行う研磨処理は「素地調整」と呼べるかもしれません。
このような時に、最初に研磨用具や薬品・溶剤などにより、塗られる物を塗装に相応しい状態にする事を「素地調整」と呼びます。「素地ごしらえ」です。
▲ビデオ 軒樋の足付け 脱脂処理
具体的に言えば、油分や木工用ボンドが付着した部分には塗料が乗りにくい(薄くしか色が付かない)現象が起こります。そこで、カッターやサンドペーパーでその部分を処理します。
※白木造作で大工さんが木工用ボンドを使った後で、濡れたウェスでボンドの周囲をふき取るのは、塗料の付着を阻害しないための配慮です。
※また場合によっては和室の天井板などに触れる場合に清潔な手袋で作業するなども、経年後に作業者の油脂が天井板の表面に現れてくるのを防ぐ配慮です。
実際の家屋の塗替えでいえば、水分の残った状態で塗らないとか、カビやコケを洗浄や薬品で処理してから塗装するなどの配慮が必要になります。トタン屋根や鉄骨の階段を塗る場合には最初に錆ている部分を処理することが必要です。
▲ビデオ スレート屋根 微生物の処理 バイオ高圧洗浄
また、コンクリートやモルタルの新設時には、素地を放置して水分やアルカリ分を低下させてから施工しないと、塗料の剥離や色ムラが後から生じる事があります。
乾燥のためにモルタル外壁などを放置するインターバルを「養生期間」と呼びます。
高圧洗浄後の水分の乾燥期間を確保する「乾燥養生」も大切です。
近年では水分が残っていても施工できる下地処理材なども開発されていますが、一般的には塗装工程に移るまでには、乾燥養生が必要です。
新築時の外壁左官工事において、モルタル外壁の養生期間が不十分な外壁吹き付けや、高圧洗浄後の乾燥養生が不足しますと塗膜障害が起こりますが、工期が短い場合にはこの養生期間で調整される場合が多いですのでご注意ください。
▲ビデオ 木製鼻隠し サンダー処理
素地調整の施工画像
素地調整では、「こする・みがく・おとす・けずる・はがす」などの作業が中心となります。主に用いる用具類としては、布・研磨紙・金ベラ・カッター・サンダー・脱脂剤などです。
研磨処理
素地の表面をなだらかにしたり、汚れや付着物を除去します。カッターや研磨用具を用いて素地の形を整えたり、はがしたりも行います。
足付け処理
素地に細かいキズを付けることで、塗料の密着性を高めます。「目荒し」とも呼ばれます。あまり強くこすりすぎて、深いキズをつくってはいけない部分があります。雨ドイなどは禁物で刷毛塗りの場合には、キズが消えない事になり、美観上好ましくありません。雨戸の表面を鏡のように仕上げる場合なども「ペーパーの番手」に注意が必要です。
脱脂処理
脱脂剤を用いて素地の油脂類や研磨粉を除去します。塗料の密着性を高めます。塗られる物の種類によっては布でこする動作により「静電気が発生」することがあり、専用のタオルやペーパーなどを使います。静電気を考慮しないと「スプレー塗装」などでは、せっかく調整した素地に「ブツ(小さなゴミ)」を呼び寄せてしまいます。建築塗装では、このような「目に見えない工程」が実施されることが少なくなってきました。
つまり「素地調整」は最初で肝心な工程です。調理でも「素地ごしらえ」が重要なように、塗装においてもその後の良否を左右する大切な工程です。汚れ。油脂類の除去は経年後に塗膜のハガレなどの見えない原因になりがちです。つやムラや色の部分的な違いの原因になる事もあります。精巧な塗装においては絶対に省略はできません。
本来、「素地調整」は「下地処理」とは区別され、塗装されていない物に施す処理を指します。混同される事も多いですし、省略されることもありがちです。木工塗装・板金塗装などでは、「必須」ですが建築塗装の塗り替えでは残念ながら必要性が十分理解されていないのが実情です。塗り替え工期と施工者の認識次第といえるかもしれません。素地調整や下地処理の行い方次第で「職人としての姿」のシルエットが垣間見られます。木工や板金塗装に於いては初歩的な必須工程で、どなたも省略などしないでしょう。
昔(数十年前)は刷毛を持つまでには数年間の修業が課され「素地調整」をしっかりできるようになってから、次の段階へと移らせましたが、毎日、「ペーパー」や「掃除用具」を持ち、職人の一挙手一投足を凝視していました。よそ見など致しません。連日の作業で指先はたいへんでした。本当の職人さんなら、どなたもご経験のところでしょうか。(笑)
素地調整の後は、具体的に部位ごとの「下地処理」を行いますが、その部分の様子に応じた様々な処理が必要になります。 素地調整や、養生期間(次の工程に移行するまでの時間)・「下地処理」の良否により塗装の最終段階の仕上がりに大きな差が生じる場合があります。
と云いますか、「生じてしまう」ものなのですが「何年か経過しないと」その差が見えない場合が多いです。雨ドイなどはわかりやすい部分で、最初に目荒しを行わず、廉価な塗料を薄め過ぎて塗ると見事にハガレます。
(本当のことを言えば、最初に何を行うかや下塗りを少しの面積見ればわかってしまうのですが、施主様には「最初の工程」で仕上がりを予測することは難しいかもしれません。)161221